後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2015年2月27日金曜日

4日目、檀上美香さん63km


檀上さん、福山でお会いした方です。
福山ではおこがましくもアイドルという設定で握手会をしていたのですが、無理やり握手をしていただいたときの手のぬくもりが心に残っています。

似顔絵は、少し目が離れ気味になりました。

頭の両側をぎゅっとプレスすると、目は寄りましたが顎も心なしか尖ってしまいました。

朝食中も寄り目がちを意識して、片手で皮膚を押さえています。
自分が知らないだけで、押すと体が軽くなるツボがここにあればいいのになあと思いました。

サンドイッチとミルクティーの朝食をとったあとは、再び布団をひっかぶって登校拒否。
もう行かないと間に合わない! という時間を1分過ぎてから、やっと飛び起きてスタート地点に走りました。

間に合った!
今日は63km。
全日程の中で最長距離になるのがこの日です。
みんなわたしのように登校拒否してるんじゃないかと期待していたのですが、全員揃っていた上に1位の女性ランナーはハツラツと準備運動をされていました。心身の質が違うって感じ!

昨日全力で走ってしまったせいで肺がやられたわたしは、徐々に体を慣らしながら走ろうと、武内さんと並んでスタートしました。

海岸沿いを走ります。
風に乗って運ばれてきた細かな水しぶきが、シャワーのようでいい気持ちです。
武内さんと無言のままゆっくり刻む足音に、幸せを感じました。

坂道を上がるとエイドです。
カラフルな傘のもとにランナーたちの黄色いネオンカラーが集っています。

右にぴょんぴょん走っているのが武内さん。
一緒に走るの初めてだな~と感慨にふけっていましたが、そういえば半年前北京で一緒に走ったんでした。
武内さんはわたしの脳内の「一緒に走ったことない人フォルダ」に入っているようで、一向に更新されずさみしいです。この写真を見て忘れないようにします。

10kmを通過したところで、下り坂をきっかけに先行しました。
63km、どうやったら時間内に完走できるんだろうと頭を抱えている武内さんに、前半このペースで走れたら後半は貯金がかなりできるはずだから、がんばってねゴールで待っているね! という励ましの言葉を、「じゃ」という一言に込めました。
今日も皆様が助けてくれますように!


それから北回帰線を通り(写真なし)、観光スポットの洞窟を横目で見ながらドタドタ走りました。
去年走れた道が今年は走れない。
目視では気づかないほどゆるい上り坂も、アレルギー反応のように体が素直に反応して重くなります。平衡を察知する精密機器としてどこかに就職口がないだろうかと思いました。マラソンにおいてはこの機能いらないです…。

ゴール。

美香さんおつかれさまでした!
台湾では、マラソン中にもマラソン後にも、親指を突き出すグーのポーズが一般的です。
最初は恥ずかしく感じましたが、慣れました。
応援したいけど声が出ない時や応援に答えたいけど声が出ない時に、グッとやっておけばいいのでとても便利なポーズなのですが、間違えて日本でもやっちゃわないかが心配です。

ホテルの部屋の窓からは、さっきまで走っていたゴール直前のコースが見えました。
運動場の左側の道路です。

ランナーがひた走っています。

武内さんは大丈夫だろうかと心配です。

個性的な場所にマメができていました。

今日は走っている最中、音楽がものすごく聴きたくなりました。
帰ってスマホで歌を再生すると、細胞ひとつひとつにメロディーが染み込んでドラッギーな感覚になりました。
普段は音楽中毒じゃないのに、体が思いがけない変化を見せるのは不思議だと思いました。

制限時間30分前です。
「アキコ、ハイメイラオマ?」
「アキコ、ハイヨージーゴンリー?」
今回わたしが覚えた中国語です。
アキコはまだ着きませんか? 
アキコはあと何キロありますか?

通りに出て応援。

マリア…じゃなくてリンダだった!
リンダおかえり! 

ナイスラン! あとちょっと!
続々と到着するランナーに声を張り上げていましたが、もうあと7分。
あきちゃんはまだ来ません。

やっと姿が見えました!!
急いで! 間に合わないよ! と思いましたが、これだけのランナーが一緒なら、みんなちゃんと計算して間に合う時間にゴールさせてくれるだろうと思って一安心。

いやあ~ハラハラしました。


おめでとう!

この日も、全員がゴールできました!

お疲れさまでした!

ありがとうございましたー!
アキコをよろしくね! とお願いしていたお兄ちゃんにねぎらいの言葉をかけると、「ミカもシンクーラー(おつかれさま)、お誕生日おめでとう」と後頭部の美香さんにも語りかけてくれました。
お誕生日ではないと思うけどありがとうございます!

アイシングするための氷を補給。
氷は「ビンクヮイ」。
ビンチーリン(アイスクリーム)のビンだな、などと、レース中に中国語を少しずつ学んでいます。

エレベーターでも、数の言い方を教えてもらっています。
イー、アー、サン、スー、ウー、リオ、チー、バー、ジョー!
わたちたちの部屋の606は、「リオリンリオ」。

食堂があるのは2階なので、エレベーターのボタンは「アー」です。

夕飯は豪華なものでした。
脂っこい料理の中に、お刺身が!
和食を食べたいなんて思っていなかったはずなのに、一口食べると止まらなくなりました。
なんたるすがすがしさ! 至福の口内です。
もうわたしの胃腸は油についていけないんだと思いました。お茶漬けを欲する口が老人でした。

それから茶でもすすろうと思って麦茶を注ぐと甘くて萎えました。
よく見ると麦茶調合茶とあります。
甘いものは大好きですが、今はそんなスイートな気持ちでは…。
お刺身には甘くないお茶で行きたいです。

会の途中にはバースデーケーキが運ばれてきて、今月お誕生日の方々へ、バースデーソングが送られました。
後頭部の美香さん、12月生まれかもよ! 前に行きなよ!
武内さんに背中を押されましたが、わたしは美香さんは6月生まれか11月生まれだと言い張って、席を立つことなく終わりました。
12月だったらどうしよう! 
けれどもケーキは誕生月以外の人にも皆に配布されたので一安心です。おいしくいただきました。

食事中も、就寝中も、アイシングに勤しみます。
クーラーボックスの前は氷を求めるランナーの行列ができています。


会がおひらきになって皆が帰ったあとのテーブルを見るとごちそうがまだたくさん残っています。よく食べるとされるウルトラランナーの集まりでは珍しい光景です。
それぞれ疲労が限界に達してきているようでした。

ごちそうを味わいきれずに無念です。
ごちそうさまです!

ホテルに戻ると、スタッフのマルコがどろどろした甘いオートミール飲料を差し入れてくれました。
エイドで固形物を食べていないわたしを心配して買ってくれたようです。
マルコ、日本にも来てね! 全力でもてなします!

台湾のみなさまに本当によくしていただいて、マラソンはろくでもないけど今日も良い一日でした。
美香さんありがとうございました!

2015年2月25日水曜日

三日目、モッチーさん60㎞











モッチーさんは、札幌の地下歩行空間でパフォーマンスをしていた時に声をかけてくださいました。
それから「前略」から始まるとても丁寧なメールをくださって、「できればラスベガスでパフォーマンスアートを」と希望されていたのですが、ごめんなさい台湾でマラソンです!
似顔絵は輪郭を再現できずに頬がこけました。


奥行を表現したかった顎の二重線が、失敗した痕のようになってしまいましたが、陰りのある表情がクールジャパン!

広汎性高機能発達障害をお持ちのモッチーさんは、独学で色鉛筆と鉛筆でのイラストを勉強されているそうです。
「世の中に色々な発達障害があることが普及していない今、自らの似顔絵を使って世界中の人にもっと理解を深めてほしい」
という重みのある依頼に恐れをなして、「難しいことはできませんが…」とうろたえると、今ハマっているカードマジックのお話とともに、「マジックとアートのコラボがしたい!」(I want to do collaboration of a magic and the art! 想做魔术和艺术的协作! 매직과 아트의 코라보를 하고 싶다!)という簡単なメッセージを寄せてくださりほっとしました。
もっと難しい人かと思って身構えちゃった! これも偏見ですね。
このブログの読者が世界中にいるとは思えない…っていうか総勢20人くらいなんですよ…。という事実を、あまりに申し訳なくてカミングアウトできなかったのですが、これから売れっ子になって急に読者数が増えるかもしれないから、なにとぞ! 長い目で見てくださいね! 
未来がだれにもわからなくてよかった!















さて朝食です。
あたらしい一日…しかし心は再起動不能になりかけている古いパソコンのように重く、疲労が抜けきらないため食欲もいまいちありません。
甘い豆乳がうれしいです。


昨晩はあすみちゃんの顔を入れて撮りました。
時間差でファミリー気分です。



ホテルの蛇口はトイレットペーパーホルダーみたいな見たことのない幅広タイプで「誰得」と思いましたが、慌ただしい朝の洗面タイムには、水流の両端でもって武内さんとそれぞれ同時に歯ブラシを洗えるので、ふたりとも得でした。






この日も遅刻気味にスタート地点に集合。
路面は濡れており曇天です。
このまま天候は不安定で晴れ間は覗かないという吉報を受け、いつもどうせ気休めにしかならない日焼け止めを塗るのはもうやめました。



小雨によろこんでばんざいです。
余裕の笑みですね。



一気にゴールシーンです。



60km、6時間50分…。



30kmエイドでドリンクを手に取って後ろを振り向くと、すぐ後ろに女子がふたりも見えて、やばい! と思ってペースをあげたのです。
昨年の春、マラソン初心者の武内さんと一緒に走った時に、「あと何km?」と聞かれて「本当は12kmだけど下りが7kmもあるから、12-7=5kmで、さらに下りのごほうび気分でさらに1km引くから実質4kmしかないよ!」というめちゃくちゃな計算式で武内さんをねじ伏せたのですが、それは嘘だと思いました。下りの距離はゼロにももちろんマイナスにもならず、太ももの筋肉痛と膝への圧迫がプラス+プラスでした。





一番最後のエイドで、スタッフの方々に、「イチバーン!」「ニホンジン、イッチバーン!!」と声援を送られたわたしは、一番の喜びに歓喜し、また二番の女子の追走を恐れ、明日以降に力を残すことは考えず、死力を出し切ってゴールに倒れ込んだのでした。
よしよし、いいシーン!! 
スタッフの方にもランナーの方にも笑っていただけて、よーし、パフォーマーの本領発揮、これで後頭部のモッチーさんにも、「モッチーさんのおかげでがんばることができました」とか、「奇跡の1位になれたのはモッチーさんのマジックが通じたからでしょうか」とか言えるなとほくそ笑んでいると、なんということでしょう、涙でかすむ視界を横切るのは、シャワーを浴びてさっぱりした格好に着替えて歩く女子の姿ではないですか…。






これはピースじゃありません。
2位のサインです。


「イチバン!」て、知っている日本語の単語を言っていただけなんですね。 
ふざけんな死闘を返せ!!
…夢を、夢を見させてくれてありがとうございました……。
ちなみに、左端の田上くん(あだ名)はこの日も磐石の1位だったそうですよ! ナイス笑顔! クソッ!





完全燃焼できたわたしは、腹筋と肺が苦しく咳が収まりません。
ここがこの日の宿! 
体育館で皆で寝袋合宿です。

ただし、体育館がいやなランナーは学校の向かいの宿を個別にとることもできます。
我々3人は父の計らいで雑魚寝を免れることができました。



重い体を引きずって宿へ。



右が、わたしと武内さんの寝るベッドです。

ベッドカバーはビニールコーティングされており撥水性抜群です。
アマゾンから間違って届いた梱包されたままの寝具にやむを得ず寝るような落ち着かなさ…。

エナジー不足のため低体温症になったわたしは布団にくるまり、ガタガタ震えながらアイシングをしたのですが、そんな中でも、後頭部の顔が薄れないよう仰向けの体勢を避ける配慮は怠らず、だれにも気づかれずに地道な努力をするなんて、真のアスリートみたいじゃないのと思いました。
1位の人に見せたかったです。
は? って言われそう。






エネルギーを補給せねば、と布団から這い出してエントランスに行きました。
体育館はいびきがうるせえからこっちにして正解だよ! とエリートランナーたちが勝ち誇って会話をしています。



エイドで何も食べられなかったわたしは無心でカップラーメンをずるずるすすったのですが、なんと食べきる前に胃がむかついてきて、生まれて初めて女子になった気がしました。
半ラーメン頼むとかぶりっ子もたいがいにしろと思っていましたが、少食って現実に存在する現象なのですね。
宿のおかあさんが剥いてくださる柑橘類で早くさっぱりしたかったのですが、ラーメンを残したらおなかがいっぱいだと勘違いされて「どうぞ」と言ってもらえないかもしれない。果物欲しさでのろのろ食べ続けていたはずなのに、気づくといつの間にかスープまで飲み干していてびっくりしました。疲労による少食よりも生まれ持っての大食漢の卑しさの圧勝でした。





制限時間まで、あと30分。
武内さんを迎えにゴール地点に行くと、机にアイスが転がっていました。





これは何? と食べてもいいのか聞くと、牛のツノと乳のジェスチャーで「ミルクアイスだよ!」と教えてくださったのですが、それはパッケージのイラストを見ればわかるよ。
けれども、全員でおっぱいをもみもみする仕草が仲良しで幸せな気持ちになりました。











武内さんの姿はなかなか現れません。
コースを逆走して、少し先まで応援に行くことにしました。






時計を何度も見て、まだ来ないまだ来ないと気をもんでいると、姿が見えました!
並走していた大会車に乗っけてもらってゴールへともに向かいます。





いつものメンバーに引きずられてゴール!

間に合った!
お疲れ様です!


























大会3日目になり、故障で苦しむ人の姿がちらほら出てきました。
それでも今のところ、完走率は100パーセントです。
ランナー全員が、武内さんを完走させるという使命を心に、一丸となって戦っているようでした。
戦士のみなさんありがとうおめでとう!




夕飯のお店です。
漢字が読めません。



上位5名の女子が集うテーブル。
目が合ったら殺されそうなのでスピーディに盗撮しました。
もちろん被害妄想です。



わたしたちは部屋の隅のほうでハイチーズ! 内向的~!




料理は、ひとしきりごちそうが出揃ってみんな満腹になった後にデザートのように春巻が出てきて、計画性が少しもありませんでした。
それでもわたしは、乾燥肌にオイルをなじませるような気持ちで、疲れた胃腸にオイリーな春巻を滑り込ませたのですが、ただただ、もたれた。



モッチーさんの広汎性高機能発達障害についてもっと知らなくてはと思って、ネットに頼ろうとホテルのワイファイに接続したのですが、「広汎性」を「こうぼんせい」とか打ち込んだせいで変換できず断念。
正しくは「こうはんせい」ですね。無教養を恥じ入るばかりです。


大会スタッフのメディカル担当の方に、血豆の処理をしていただきました。

これの血を抜きます。





別に本人は痛くはなかったのですが、水っぽい血がしたたるさまに周りが引いていました。

次はリンダのマメの処置。
リンダは看護婦だけど、自分が治療されるのはこわいんだよ、と武内さんが通訳してくれました。
この時聞いた看護婦という職業から、看護婦→慈悲深い→マリアという変換がわたしの脳の中で行われてしまい、翌日のレースで「マリアー! がんばってー!」と大声で言ってのけました。
覚えたての名前で親密さを演出するはずでしたが、お気の毒です(わたしが)。



続いて武内さん。
悪い顔!
北京マラソンでマッサージされた時もこういう顔をしていましたが、人を信じていないのでしょうね。自覚するといいですよ。










広汎性高機能発達障害について何一つわからないまま一日が終わりそうです。
帰ったらモッチーさんご本人に聞こうと思いました。
このブログを書いている今、まだ広汎性高機能発達障害の内容をわたしは知らないのですが、こうはんせいこうきのうはったつしょうがい! つっかえずに言えるようになっただけで、発達障害と仲良くなれたような気がしています。
あと、高機能って、すごい高価な能力を装備していそうでひるんでしまいますね。わたしに備わっている何かしらの機能は加齢とともに低下し続けています。

わたしも武内さんも脚力が超低機能化しているため、スタッフの方がわずか500mの距離を車で送ってくださいました。かたじけないです。






今日の完走メダルです。
2位だから銀色なわけではなく、みんな同じ色の同じ六角形です。
1位はぬか喜びに終わりましたが、星が燃え尽きる一瞬のように、ごーっと輝けたのはたいせつな思い出になりました。
あとは、輝きが思い込みではなく現実の成果になるとなお良いですね。
練習がんばります。
モッチーさん、お疲れさまでした!
わたしはモチベーションが長続きする高機能な精神力がほしいです。
ありがとうございましたー!