後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2016年3月31日木曜日

宣材撮影

台湾に着きました。
台南に住むれいちゃんが高雄空港まで迎えにきてくれました。

「地震は? れいちゃん。没問題? 大丈夫?」
「ダイジョウブ〜。」

言葉があまり通じないことがわたしの心を明るくしました。

れいちゃんわたしたち、今回おもしろいことするんだよー。
みてみてー、これ着るの。


じゃじゃじゃーん。
ゲストハウスで着替えました。

「有意思!(おもしろい!)」
れいちゃんが目を輝かせて笑います。

でしょー! いいでしょ!!

れいちゃんに、写真を撮ってもらいました。



外にも出ました。




それから夜市へ。




小雨まじりのお天気で寒く、あたたかい豆腐のデザート「豆花」のお椀を、両手で抱えて少しずつすすりました。



後ろ側は漫画でしたが、前側はただ真っ白い全身タイツです。
理由があって変なことしてるのか、それとも触れちゃいけないアレな人なのか、判別できず薄気味悪かったのでしょうか。遠巻きにコソコソ写真を撮られることが多かったのですが、ただ一名、直接記念写真をお願いしてきた方がいました。
わたしは常日頃から後頭部での記念撮影に慣れていますが、いつもとは違う方向を向いてのおじさんとの横並びに、武内さんの右手の硬直が緊張を物語っていました。



奇異な視線に耐えられず、早々に夜市をあとにし、セブンイレブンでお菓子を買って夕飯にしました。

2016年3月30日水曜日

出国前

髪を切りました。



シャキシャキ、武内さんがハサミを動かしながら、「美容師かあ…」と感慨深げにつぶやきました。「自分の選択肢にはなかったけど、進路決める時、もし美容学校行く仲いい子とかがいたら、わたしも美容師になってた可能性あるな。」へえ〜。わたし全くないわ。「いや、わたしもなかったんだけど、それは周りにいなかったからだって今思ったよ。」
流される自信、満々の武内さんを見て、今まさにわたしに流されて100km走ろうとしていることを考えているのかなと思いました。
流した張本人のわたしにだって、100km走らない人生もきっとあったんだろうな、とか。

——どこに行き着くかな。

あったかもしれないそれぞれの人生を夢想する甘美なひとときは、床に散らばった髪の毛といっしょに掃除機にブーン。吸い込まれて行きました。

すっきり。

セルフタイマーでふたりの写真を撮りました。


見栄え良い!
うまくいってるよ!
コマも揃ってるよ!!

「台南」と「加油」が、ふたりくっつくと「台南加油」になるところがこの漫画のミソです。

せっかくつくったこの衣装、どうせなら大会当日だけじゃなく、街歩きの段階から着てみてはどうか。

武内さんが言いました。
「当日、スタートは夜明け前だし、荷物預けたりバラバラに動くし、走ってる間は写真撮れない。出走前は人に絡まれてわやくちゃになると思う。漫画の内容とかほとんど見えないだろうし……。台湾着いたらマラソン前に撮影完璧に終わらせて、フェイスブック……、アップしようかな。ランナー全員がフェイスブックやってるわけじゃないけど、事前に宣伝できてればいろんなことがスムーズだと思う。大変なんだ。いちいち説明するの。」
わたしも良い考えだと思いました。
「おおー。でもあきちゃんやらないと思うよ。毎回それ言ってるけど毎回告知しないじゃん。」
「いや! 今回はやる! 決めたんだ! 絶対やる!!」

苦い、劇薬を飲むような表情で歯を食いしばる武内さんを見て、わたしはフェイスブックってヘビーなんだなあと思いました。
わー。がんばってね! すごくいいと思うよ! 応援するよ! 楽しみだよ。でも多分あなたやらないよ。

2016年3月29日火曜日

試着

衣装を試着しました。
パツンパツンでした。


タイツを念のためマタニティタイツにしておいたのですが、なんならきつかったです。
体のラインがあらわになるのが人並みに恥ずかしいという抵抗感があり、「なんか、でも、太ってる時でよかった…。これでちゃんと痩せてたら、見せびらかしたいのかって思われそうだから……。」と苦渋の声を絞り出すと、武内さんに「それ本気で言ってんの? だれもそんな目で見ないよ」と自意識過剰をバッサリ斬られました。
自分の痩せ信仰が病的なのかもしれないです。


痩せている武内さんは、作品としての強度の点から、「やっぱりわたしも全身タイツにすればよかったかな…」と不安げでしたが、「ちーがうってあきちゃん!」わたしは力説しました。「一名はかわいさを残しておくのがいいんだって! 普通の女の子ががんばってやってるっていうのがいいんだよ! わたしが何やったところでもう大して驚きがないけど、あきちゃんと並ぶと強度出るよ。でもこれでふたりとも全身タイツだったらキワモノすぎて近寄れないよ。ちょうどいいよ。」

ふたりの体格の違いも効果的でした。
名前がわからなくても、「でかいの」「小さいの」だけで万人に通じるからです。顔の造作以外に比較する対象があったことに感謝しています。

わたしたちは今回、ふたりで見開き1ページの漫画になりました。
並んだ状態が完成形です。
くっついた時にコマがつながるよう、サイズの違いもちゃんと計算に入れました。
シンデレラの靴を例えに出すのはやりすぎとだしても、ふたりにしか着られない、オリジナルの衣装です。


⚫︎台湾大好き/我愛台灣

⚫︎おいしい/好好吃

⚫︎はじめて100㎞に挑戦します!/我第一次挑戰100km!

⚫︎二月の台南の地震の時、私達はとても心配しました。
   二月台南地震的時候     
      我們很擔心你們

⚫︎台南/台南

⚫︎がんばれ/加油

⚫︎私達はこの大会に参加するのは4回目です。今日は一緒に頑張りましょう!
   這場比賽是我們第四次參加 
      今天一起加油!!

⚫︎ハァハァ/喘喘

⚫︎がんばる…。毎日練習…。/我要努力…每天練習…

⚫︎大丈夫!/沒問題!
⚫︎きっと完走できる…/一定可以完賽的…

⚫︎幸せだな〜/好幸福啊~

⚫︎太った!/胖了!
⚫︎時間ない/没有時間

⚫︎ダイエット始めなくちゃ/我要開始減肥
⚫︎お腹空いて死にそう/餓死了

 ⚫︎完走したい!/我想完賽!


我想完走。
我思う。完走したいと。

2016年3月28日月曜日

準備

アイディアが浮かぶまでは時間がかかりました。

別に何か特別なことしないでも一生懸命走ればそれでいいと思う日もあれば、せめて後頭部をやらなくちゃもったいないと思う日もありました。せっかく髪の毛伸びたし剃りたくない、と消極的に悩む日があれば、マンネリを打破する、新たな展開を渇望する日もありました。

練習は真剣に続けていたし、走り込みはできていました。
完走の見込みはあります。

走っている最中も走り終わってからも、武内さんと日々話し合いを重ねましたが、どう大会に臨むのか決定打の出ないまま、出国まではあと5日となりました。
何かするのか、しないのか。態度を決めなければいけません。

どうにかして台湾のともだちにメッセージを伝えたいという思いは日増しに強くなっていました。
でも正直言って、メッセージという言葉そのものが苦手です。
メッセージだけならまだともかく、メッセージ性となるともっとあからさまにアレルギーが…。
相反する両極の感情に揉まれて、深夜。
展望がようやく開けました。

いいと思う!
早く見たい!
完成が待ち遠しい!
けど作業めんどくさいから妖精とか小人とかが寝てる間にやってくれればいいのに!

そんなわけにはいかないので観念して翌朝イオンへ。
白いTシャツと白いタイツ、白い靴を買い求めました。

ユニクロ/190円

ABCマート/3200円

破格で入手できました。
イオンで買い物ってアマゾン以上に情緒も何もないけど、イオン最高です。

アイテムが揃ったところで制作開始。
模造紙に下絵づくり。


漫画。
「台南加油」!

どうだ! メッセージを絵にくるんでメッセージ性を消すんだ!!


ユニクロのヒートテックに油性マーカーを使います。
生地にペン先がひっかかって、なかなか作業が進みません。



たまたま家にあった版木のパーツを使って、生地を伸ばしながら描きました。
こんなの普通たまたま家にあったりしないから、美術家でよかったと思いました。

武内さんとふたりで分業しての徹夜作業。
出発前夜、なんとか2体、出来上がりました。


完成度ある!!!!!
ざまあ!!!!!

2016年3月27日日曜日

地震

2月6日、台湾の南、台南で大きな地震がありました。

台南にはともだちがいます。
以前、お泊まりしたあの家は年季が入っていた。
あのへん一帯は、揺れに耐えたのか。
皆の安否は。

がれきに覆われたニュース画面に思い出すのは日本の震災の惨状でした。無力でした。



東日本大震災の時、世界中で一番たくさんの義援金を送ってくれたのが台湾だったそうです。
じゃあ二番はどこだったのか、三番は四番はどうなのか、わたしは知りません。
額にしたって、大きすぎてピンと来ない。
それでも、知っている範囲での聞きかじった情報を元に、応援ありがとうの気持ちをTシャツに書いて、翌々年、台湾のマラソン大会を走ったのでした。
強い気持ちではありませんでした。
余白があるなら、何か書こう、お礼言おう。それぐらいの軽い思いつきでした。


わたしはそれが初めての台湾でした。
それから何度も台湾に行きました。
言葉も少し覚えました。
「大好き」「おめでとう」「速い」「お疲れ」「つらい」「痛い」「大丈夫」。
訪れるたびにもっと台湾を好きになりました。
わたしは台湾が大好きです。
地震つらい。



東日本大震災では、いろんな人がいろんな表現をしていました。

わたしはできませんでした。

震災から5年が経つけど、いまだにできていません。
できたのは唯一、台湾に謝謝を言うことだけだ。



地震を、作品にできない。
わたしはわかってない。
無知で頓馬で非力だ。またそこで行き止まる。



ひと月後には、台湾に行く。
武内さんとふたりで、初めて走ったナンハンです。
「ありがとう」を書いたあの時から、行き止まり続けている場合なんだろうか。
用意すべき余白が、届けたいメッセージが、わたしにはあるんじゃないのか。
ないならいいんだ。
ないのか。
あるのか。
あるなら

2016年3月26日土曜日

マラトンたん

「走るのが好きなわけではない」
というのがかなしいかなわたしと武内さんの共通項で、マラソン合宿が始まってからも、いかにしてマラソンと付き合うかがたびたび議題に上がりました。

「好きになれたら楽なのにね」
「走ってる最中はまだ、『好きになれそう』って思うんだけど」
「走ってない時はやっぱり全然マラソンに会いたくない。『今日も好きじゃなかった』って思ってがっかりする。」

「マラソンのことかわいく呼ぶようにする?」
「マラトンたん?」
「マラトンたん。」
「『好き』って決めるんだよ!」
「マラトンたんをふたりで取り合えばいいのかな」
「『わたしのほうがマラトンたんのこと好き!』『いやこっちのほうがもっと!』みたいな?」
「好き度は走行距離と時間で示す。寝る間も惜しんでマラトンたんに会いに行く。」

…………この会話を、30オーバーのおばさんふたりが家賃3万円の木造家屋で繰り広げていると思うとゾッとするものがありますが、わたしたちは真面目でした。
なんとかして好きになりたかったし、苦労して好きになってやってんだからちょっとは振り向いてくれとも思っていました。片思いなんかするもんじゃないです。武内さんは無理に走ったりしないで絵を描いたらいいんだし、わたしは、…あ、あれ? わたしは、マラソン……? うそだ、自分の最上位が、マラソン? 
時間と熱意を貢いだぶんの見返りが、欲しい……。

好きじゃないことに打ち込むという不毛な走り込みの毎日でしたが、しかし武内さんは目に見えて、速く強くなっていきました。
10kmで音を上げた雪の日から1ヶ月、うららかにゆるんだ初春の風の中、京都と大阪との往復93km。休憩を挟んだとは言え、終始確かな足取りで武内さんは自己最長距離の93kmを走りきりました。
個人で走る93kmは、大会で走る100kmよりも大変なはずです。ナンハンでの100km完走はもう間違いありません。

完走圏内に余裕で入った武内さんは良いとして、問題はわたしでした。
去年と同じ108kmにエントリーしたつもりでしたが、今年は108km部門はなく、120km部門にエントリーしていたことが判明したのです。
120km、標高2300m、制限時間14時間。
去年の108kmは制限時間の14時間に間に合わず、40分もオーバーしてのゴールでした。
去年より12kmのびてるのに40分縮めるのか!
2年連続のリタイアはまずいです。
ただどうも厳しそうです。


2016年3月25日金曜日

レッツハウツー

武内さんを迎える合宿当日までにランニングの習慣を身につけておこうと、わたしは再び、空き時間の大半を走り込みに費やすようになりました。

得だとか損だとか、そういうことをすごく考えた。
以前は、「少ない手数で仕事量をいかに多く見せるか」みたいなテクニックが肝心だと思っていたし、大会本番でも、「最低限の練習量で際どく完走」するのがクールだと信じて疑いませんでした。
略歴に、「○○大会完走」って書ければそれでいいから。
途中式はぶっとばしてでも、結果が手に入るのならそれでいい。

今でもそのやり口自体は否定しません。若い自分なりに賢く(ずる賢く)やりくりしていたんだと思います。
完走できるのならそれでいいんです。
問題は、完走できなかった場合です。
大会に参加するに当たって、努力もせず、思い入れもなく、のんべんだらりと走ってクリアできなかった場合、あとには見事に何も残らないことをわたしはリタイアの末にようやく悟ったのでした。びっくり。
参加費だってかかります。こちとら低所得者です。お金かけてやってる以上、「学び」とか「気づき」とか、せめて自己啓発セミナー級の特典は欲しいじゃないですか! 

練習に時間使わないと、コストパフォーマンス下がるわ。
歳を経て、わたしはそう実感するに至りました。
涼しい顔で、ニヒルに構えてるばっかりじゃ思い出のコストパフォーマンスが下がっちゃう!
 
わたしは武内さんから記憶障害を疑われるほどいろんなことを覚えていないのですが、時間をつぎ込んだ事柄は頭の中にとどまり易くなります。
量より質ってよく聞くし、すぐれたパフォーマンスのためには練習の質を上げるべきなんだと思うんですよ。でも質の善し悪しを判断するのは素人には難しいです。馬鹿にもわかる基準として、もってこいなのが「時間」です。しかも不景気の強みと言うべきか、幸か不幸か、わたくし時間には恵まれておりますもので……。
時間を無駄遣いして良質な思い出を手に入れるわよ!

今年は去年よりもずっと多くのマラソン大会にエントリーしました。
勝負レースとかないです。捨て駒なし。
最強の思い出博覧会をするために、一瞬一瞬精魂こめて練習して、毎試合死ぬ気で燃え尽きる。
……そんなの無理だって、書いてるそばから諦めているのですが……。それができるならわたしは今頃もうスーパーマンです。でも凡人も心ひそかにスーパーマンを目指す。


好きな言葉は「量も味のうち」です。

2016年3月24日木曜日

マラソン合宿

1月末からのおよそ1ヶ月半、武内さんと京都で合宿をしていました。

目的は、走り込み。
3月12日、台湾で行われる南横(ナンハン)超級マラソンに向けた合宿です。

ナンハンは、2013年から、ふたりで毎年通っている大会です。
入賞したりリタイアしたり父親を巻き込んだりしながら、現地の方々の歓待がうれしくて、気づけば今年で4回目。

武内さんは今回、100kmマラソンに初挑戦。
わたしは前回の108kmリタイアのリベンジ。

エントリーしたのは確か11月でしたが、例年通り月間走行距離0kmを積み上げて、年越し。
1月、東京に行ったついでに試しに武内さんと10km走ってみたところ、ふたりともひどいありさまでした。
「やばいね。」
「ナンハン無理だね。」
「わたしはこれから練習するよ。しばらくうち来る? いっしょに走る。」

決定したマラソン合宿でしたが、不安もありました。
去年もナンハン直前の2週間、倉敷でふたりいっしょにいて、毎日練習するはずだったのです。だけど早起き出来たのは1度きり。しかもあまりにも走れずに5km喘いでやめました。連日おいしいものをたらふくごちそうになって、筋力の代わりに脂肪をたっぷりつけて、去年のナンハンは予定調和のタイムアウトでした。

明らかに「コツコツ努力タイプ」ではない我々がいっしょにいると、牽制し合ってしまうのでしょうか。真面目にがんばることがどうも馬鹿らしく思えてくるのでした。第三者からは「共依存」などと言われたけれど、確かに武内さんといると相乗効果でふたりともだめになる気がしました。わたしはメンヘラだし、だめな自分を嗤ってほしくなるというか……。結局、だめな自分のことをちょっと好き、というのが良くないんだと思います。

しかしわたしはスパルタスロンを完走したことで自信をつけました。「わたしはメンヘラではない」という自信。論理的思考では全くありませんが、「スパルタスロンを走りきるメンヘラなんていないよね? いない。」というのが自信の根拠です。「いいのあきちゃんつっこまないで。」
太字で書きます。
わたしはメンヘラではない。

そろそろもう、大丈夫じゃないかなと思いました。
大会まで1ヶ月半、完走できるようになるまではギリギリのラインです。
コツコツ派じゃないわたしたちでも、付け焼き刃的トレーニングならきっとできる。
去年はできなかったけどできる。ふたりいっしょにいてもできる。ふたりいっしょにいるから、できる。できないのならねつ造する。