後頭部ビジネス

若木くるみの後頭部を千円で販売する「後頭部ビジネス」。
若木の剃りあげた後頭部に、お客さんの似顔絵を描いて旅行にお連れしています。


*旅行券の販売は現在おおっぴらにはしていません。*

2017年11月6日月曜日

220km〜240km《武内》

若木です。
武内さんがあと一息です。
この完走文はフィクションです。


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「マックさーん!ビンタしてもらって眠気が覚めましたーー!!」
先を行ってるマック先生に大声で報告。
山外さんのビンタのおかげでやっと目が覚めた……んだけど、しばらくするとまた眠くなったの。
外部から刺激をもらっても、切れたときさらに眠くなる。
やっぱり、自分の内側から揺さぶるしかないと思った。
いまの自分が頼れるのは号泣だ、それしかないって。

泣いてる間は絶対眠くならないし効き目も長い。他の眠気覚ましよりも断然、持ちがいい。
走れないことは実際悔しいから、スイッチは簡単に入れられるの。なんでこんな甘ったれなんだと思うと本当に本当に、悔しくてふがいなくて腹立たしくてすぐ泣ける。周りがびっくりするぐらい泣く。

私もともと泣き虫だからさ。これまで、号泣デッサン、号泣教育実習、号泣スピーチ、号泣対談、……、いろんな号泣沙汰やってきたけど、号泣ランは初めてだったな。
塩分が抜けたせいかポテトチップスがおいしくなって、エイドの度にバリバリ食べてた。

何回も何回も繰り返し号泣してると、マックさんが「泣いてもしょうがないから。」とかまたまともなこと言い出すの。「泣き言はやめよう!」って凛とした声色で。
……泣き言!! これって泣き言なのか……? 
わからなかったの。泣き言ってだって、なんかもっとおとなしいやつじゃん? 私のこのほとばしる激情が泣き言ですか……!? と思って、「ちがうんですこれ号泣したら眠くならないんです!!」ってわんわん泣きながら弁解したら、「そういうことならかまわない。」ってわかってくれたんだ。見守り並走しながら、私が泣くの、ほっといてくれたんだけど、エイドが近づいてくると「エイドで泣くのはやめよう。これは自分たちの問題だから」って諭された。確かに私が泣いてたらマック先生が悪者みたいに見えちゃうもんね。
それで、自分、マックさんに迷惑かけてるんだって気づいてハッとして、あわてて、「や、そ、それはしません。」みたいな。「わ、わ、わかってますよ。」みたいな。
ほんとは当然、エイドでも号泣やる気でいたからね。でも、マック先生にとってエイドとは教育委員会なのだと思って、勝手な振る舞いは慎まねば、と。あぶないあぶない泣くとこでしたと思いながら、エイドはすまして通過したよ。いまさら常識あるふりしても遅いと思ったけど、やっぱりマック先生にちょっとは気に入られたいからね。問題児返上だよ。

結局、計4回やったかなあ。大号泣。でも泣いて走って、泣いて走ってを繰り返していくうちに、自然と走れるようになってたの。

マックさん、私がちょっと走れただけでも「よかったよかった、貯金増えた」って拍手してくれるんだ。落ち着き払ってるように見えてたけど、内心はマックさんも気が気じゃなかったんだろうね。
「だんだん持ち直してきたね」ってうれしそうな顔で、「これなら大きい坂、全歩きしても大丈夫」って。ずっとマックさんのこと困らせてきたから、褒められるの新鮮だったな。先生によろこんでもらえて私もまんざらじゃなかった。

「最後の20キロは下り」って、スパルタスロンのコースの特徴、そこだけは前から知ってたから、「最後の20キロは下り」地点まで来た時、もうゴールって気持ちが強かった。

おっきい坂をふたりで歩いて登って、「歩くって最高!ピクニックって楽しいですね!」ってはしゃいで話しかけたら、先生微妙な顔してた。……楽しくはなかったんだろうね。

あとは全部下りだから、ゆっくりでも淡々と行けばいい。
「最後の10km、これが長いんだよね〜」とかマックさん言うんだけど、私からしたらすぐだから。だって10より先はもう、ひと桁だよ。1の位は得意なんだ。

ああ、ゴールできるんだ……。ゴールできるとは思ってたけどほんとにできるんだ。
静かにじんわり感じる。
先生役と生徒役ももうすぐ終わり。